友達が突然コンタクトにしてきたときの話(前編) | ABYSS 〜 アビス 〜

友達が突然コンタクトにしてきたときの話(前編)

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今回は、自分が10代だった頃に体験したとある事件についてエッセイを書いてみたいと思います。テーマは、「中学・高校の野球部という空間」と「10代の男の子の自意識」とかです。お暇な方はぜひお付き合いくださいm(_)m

ピースフルだった「中学の野球部」

僕は中高時代、野球部に所属していた。小学生まで特にちゃんと運動はやっていなかったのだが、ゲームが好きで『パワプロ』や『ファミスタ』などもやっていて、実際に野球をやってみたかったので、中学に入学したのを機に野球部に入ってみた。

大人になってから知ったのだが、基本的に日本の学校社会では「野球部」というのはきわめて評判が悪い。「野球をやっているだけなのになぜか偉そうでオラついている」「自分たちが学校の中心だと思っている」……etc。

だが僕が入ったのは都会の私立中高一貫の男子校だったので、そういった雰囲気はほとんどなかった。

日本の私立男子校は基本的に、ヨーロッパのパブリックスクールとかギムナジウム(『トーマの心臓』とか『風と木の詩』に出てくるような良家のおぼっちゃまが通う全寮制男子校)をモデルにしているところがある。だから多くの中高と違って「体育会系部活だから偉そうにする」ということはなかった。むしろ学校全体が「お母さんの言うことをよく聞いて勉強を頑張って中学受験した」という男子ばかりで、オタクっぽい感じの生徒がほとんどであった。

だから当然、野球部といってもオラついた感じは薄く、ゆるやかに文化系部活のノリで中学時代を楽しく過ごすことができた。

中学まで僕の学年は40人以上が在籍し、A、B、Cチームまで分かれて活動していた。もちろんAチームが公式戦には出場するのだが、ふだんの練習試合ではかならず2試合目にBチーム戦も行う。40人以上もいると、定期的に部活に来るのは20〜30人程度であり、その全員に出場機会を与えるためには一日あたり2試合もおこなえば十分なのだ。

Aチームが試合をしているとき、審判やボールボーイ、スコアラーなどはBチームのメンバーが担当し、Bチームの試合のときは逆にAチームのメンバーがそういった裏方仕事を行う。「スポーツを楽しむ」「スポーツから何かを学ぶ」という点では理想的な環境だったと思う。

高校野球の「勝利至上主義」がもたらす歪み

中高一貫男子校では、中学三年生は受験がないので、特に野球部の場合は中学三年の後半ぐらいから高校野球の練習に混ざり始める。これは実は高野連によって公式には禁止されているのだが、ボールが変わる(中学の部活は軟式球だが、高校では硬式球に変わるので、早めに対応したいと誰もが考えるのだ)こともあって、いろんな抜け道を使って、中学の部活を引退した中三部員たちに練習を行わせるのだ。

そして、中学まで文化系ノリで野球部で活動できていた幸福な時代は終わりを告げる。

基本的に高校野球というのは勝利至上主義だ。

大会で一個でも多く勝ち進むために、「有望なメンバーをとにかく鍛え上げる」「ついて来れないやつはいらん」という雰囲気になる。練習も厳しくなり、そこでふるい落としが行われる。当然、「みんなを試合に出そう」という発想はなくなる。

世間が期待する「高校野球」をやらなければいけない。

最初に述べたようなオラついた感じが、試合で対戦する他校の影響や、父母や学校からの期待など様々な要因が絡んで、だんだん伝染してくる。

いままで和気あいあいと楽しくやっていたのに、「高校野球かくあるべし」を信じる指導者・保護者・学校関係者や世間からのプレッシャーが強まり、「野球というスポーツを楽しむ」ということができなくなって、一人また一人と脱落していってしまうのだ。

中高一貫男子校のメリット、デメリットは様々あるが、特徴をひとつ挙げるなら、6年間似たような人間関係で学年を上がっていくということがあると思う。特に野球部という空間においては、同学年どうしで「俺たちは幼馴染みたいなもんだから、一緒にがんばっていこうよ」という感じがよいチームワークにつながるケースもある。

ただし、一度人間関係にヒビが入るとすべてが壊れてしまう。ささいなことの積み重ねが、破局的な事態を招いてしまう場合があるのだ。

そのときに部員同士のよすがになるのが「中学からともにやってきたのだから、一緒にがんばっていこうよ」という気持ちである。野球部のオフィシャルな活動は厳しいものだから、その気持ちは野球とは別の場所で保ち続けられるようにしたい。

特に僕と親しい部員たちのあいだでは「休日の試合後に誰かの家に泊まり込んでウイニングイレブン大会をする」「練習後にハンドボールコートでフットサルをやる」「みんなでカラオケや映画にいく」「マックやファミレスでダラダラする」「他校の女子とのつながりをつくるべくがんばる(ただしほぼ100%の確率で成約しない)」といったことが行われた。

特に高校一年生というのは、男子校の生徒とはいえ、異性の目が気になる年頃である。

そんなとき、ある破局的な出来事が起こった。

崩壊への序曲

当時、「チャビ」というあだ名の部員がいた。彼はちょっとおもしろキャラで、中学一年生のときの最初の自己紹介で「チャビって呼んでください」ということで自らネタキャラブランディングを行い、クラスでも野球部でもムードメーカーとして存在感があった。

チャビは当時、『西部警察』の大門部長刑事(演:渡哲也)みたいなメガネをかけていた。いわゆる「ティアドロップ」というタイプのメガネだが、これはもはや『西部警察』ブームが忘れ去られた2000年代前半の段階では「もっともダサいメガネ」となっていた。それゆえ、「チャビのメガネがダサい」ということが周囲からしばしば指摘されていた。

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中学のあいだ、本人は周囲の意見に耳を貸さず、頑なに西部警察メガネをポリシーとして貫き通していたのだが、やはり高校一年生にもなると異性の目が気になりはじめたようだった。

そこで起きたのが「コンタクト事件」であった。

 

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事の顛末はこうだ。

まず、野球部の練習日に突然、チャビがこれまでのティアドロップメガネをやめ、コンタクトをした状態でグラウンドに現れた。

あまりにも急な異変に、右往左往する他の部員たち。

多くのメンバーはこういう心情だったのではないかと思う。

「これはツッコミを入れるべきなのか……
でも、僕らのこれまでの指摘をちゃんと受け入れて、
勇気を出してコンタクトにしてきたんだし、ツッコミを入れたら怒るかもしれない……
どうしよう……」

結局、その練習中、誰もチャビにツッコミを入れることができなかった。そして、しばらく気まずい空気が流れた。

すると、チャビはなんと、練習中のその微妙な雰囲気に怒って、突然帰宅してしまったのだ(!)

当然、野球部は「勝手な行動は許されない」という鉄の掟で縛られている集団である。その鉄の掟を破るほどの、深い怒りの表明を行ったのだと周囲の人間は解釈した。

 

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練習終了後、同学年メンバーのあいだで緊急会議が開かれた。

議題は、
「チャビがコンタクトにしてきたことに対する対応をどうするか」
「彼の怒りを鎮めるためにはどうすればいいか」
だった。

ひとまず応急的な処置として、チャビともっとも親しい部員の一人が謝罪のメールを送ることが決定された。

とはいえ、「なんで謝らないといけないんだろう……」という心情であったことは想像にかたくない。

結局、チャビは謝罪を受け入れ、しばらく練習や試合に来たりはしていたのだが、最終的には高二に上がる前後ぐらいに退部してしまった。そしてその謝罪メールを送った部員も、ほぼ同時期に退部した。

チャビ周辺の部員は、学年のなかでもムードメーカー的な存在感があったのだが、彼らが一人また一人と辞めたことで、僕の学年は屋台骨を失い、空中分解した。高一の入部時には20人以上いたのだが、最終的に高三夏の時点で僕を含めわずか6人しか残っていなかった。

あのとき、自分はどうすればよかったのか……?

もちろん、この「コンタクト事件」が主要因となって我々の学年が空中分解したわけではない。先輩や指導者による、悪い意味で「野球部的」なパワハラが度重なっていたことも事実であるし、指導者と責任教師(いわゆる「野球部部長」のこと)や、保護者会内での無意味な権力争いなど、外部要因が主なものであった。

しかし、そういった外部要因があったとしても、同学年のメンバー内で「一緒にがんばっていこうよ」というまとまった雰囲気が作れていれば、少なくとも空中分解はせず、多少なりとも気持ちよく高校野球ができたのではないか。

「あのとき俺は、どうすりゃよかったんだ……」

そんなことを、大学入学後もときおり考えていた。

 

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大学に入学して3年目ぐらいだっただろうか。「この先、どうやって生きていこう」とかいろんなことを考えていたとき、ある本に出会い、革命的な発想に至ることができた。

その本は、のちにドラマ化もされることとなる水野敬也氏の名著『LOVE理論』である。

(後編に続く)

 

※大変申し訳ありませんがまだ後半部分を書けていないので、無理に引きを作ってしまいました。2週間以内に公開させていただきますので、続きが気になる奇特な方は少々お待ちいただければ幸いですm(_)m